若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
   * * *

 マツリカがセントラルパーク周辺のショッピングモールに降りたとき、すでに周辺は電源が落とされ真っ暗になっていた。ショップの店員たちも店じまいの処理を済ませてすでに下船したようだ。忘れ物や落し物の報告も出ていないと先に作業していた同僚からきいたマツリカだったが、園内までは確認していないとのことだったのですすんで奥へ入っていく。
 天井が高い船内の公園、セントラルパークはショッピングモール沿いにあるベンチの使用率が高いが、中心部に位置している巨大な観葉植物に囲まれた非現実的な空間も乗客たちが楽しめる場所となっており、子どものぬいぐるみや玩具が忘れられていることがある。
 クルーズのあいだは子どもたちがかくれんぼをしていたなあと思い出し、マツリカは暗がりを探索する。

「?」

 だが、かくれんぼに適した場所。
 それはつまり死角になりやすい場所でもある。
 そのうえいまは電源が落とされた真っ暗な空間だ。
 頼りになるのは聴覚のみ。

 ――誰もいないよね?

 まるで幽霊船に迷い込んでしまったかのような錯覚に陥った彼女は気づけなかった。
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