若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 観葉植物に覆われている公園の中心部に、ひくひくと蠢く巨体が横たわっていた。
 足音に気づいたのか、そのおおきな身体がぐるりと反転する。

「瀬尾!?」
「カナトさま、申し訳ございません! 彼女を傷つけられたくなければ動くなと言われ身動きが取れなくなったところを容赦なくスタンガンでやられまして」
「お前が気絶しているあいだに連れ去られたってのか? 誰だ? (パン)の奴等か?」
「こら、尾田、お前が興奮するな。瀬尾、それで犯人は?」
「コンシェルジュの制服を着た女が」

 その言葉にカナトはゾッとする。
 マツリカはハゴロモでともにクルーズを過ごした仕事仲間に襲われたというのか?
 だが、エントランスのコンシェルジュデスクにいたミユキはなにも知らなそうだった。
 だとすると、怨恨によるものだろうか。

「女?」
「ええ。金髪の女が、どこの国かわからない言葉で騒ぎながら彼女の自由を奪って……その際にこれが落ちたのです」

 それは、薬品がしみついたハンカチと、バリ島でカナトがマツリカに求婚する際に手渡したサファイアの指輪だった。
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