若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい

《3》


 マツリカが目を覚ましたとき、そこには誰もいなかった。
 なんだか全身が痺れるような感じが残っている。カナトの専属コンシェルジュをつとめていた金髪美女に薬をかがされたからだろう。あのときに彼女が叫んでいた言葉はたぶんフランスのオイル語だ。ふしだらとか、ふたりの男を袖に振る娼婦だとかさんざんな罵倒を耳にした気がする。ふたりの男、というのはカナトとマイルのことなんだろうなとぼんやり思い至ったマツリカは、自分は義弟に囚われたのだと理解し、ぞくりと身体を震わせる。

 ――彼女はカナトに振られた逆恨みに、マイくんと手を組んであたしを陥れようとしているの?

 だが、金髪美女とマイルの接点が見当たらない。クルーズのあいだほとんどカナトと一緒にいたから、ほかのコンシェルジュが外部とどのような連絡をとっていたかもわからないし、逆にマイルがコンシェルジュに問い合わせたのかもしれない。ただ、後者なら支配人からマツリカの方にも連絡が届くはずだ。
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