若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい

　それは年に二回しか就航されないという幻の豪華客船の名前だ。船籍が日本にあるこの貨客船は、世界一周クルーズを執り行う日乃本(ひのもと)郵船が所有していたが、先日別の会社に買い取られたのだという。
　マツリカの母国である日本には海運四天王とおそれられている四つの海運会社が幅をきかせている。海運業のトップを死守する日乃本郵船をはじめアジアに拠点を置く巨大コンテナの三津通(ミッツ―)、財閥出身で国内外の観光フェリーを取り扱う横須賀汽船、そして業界最古で世界を牛耳る貨客船の鳥海海運……
　さいきんは業界五位のキャッスルシーが鳥海にちょっかいを出しているとはいえ、世界各地に現地法人を持つ鳥海海運の財力にはとうてい敵わない。このBPW社も鳥海運輸のグループ会社のひとつとしてアメリカ現地法人の子会社的立場に甘んじているのだから。
　マツリカは西島のはなしをききながら、はぁとため息をつく。

「買収なさったんですね」
「親の親会社がね」