若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 獣のように豹変する彼の鋭い視線に射抜かれて、マツリカは困惑の表情を浮かべながらぽつりと返す。
 マイルに襲われそうになったあの日以来、ふたりは身体を繋げていない。はだかで抱き合ったまま一緒に眠ることはあれど、家族に認められてきちんと夫婦になるまでは、とマツリカが譲らなかったからだ。
 バリ島でのひとときが刺激的すぎて、ひとたび身体を繋げたら堕落してしまうと警戒するマツリカの言い分をカナトは笑わなかった。その代わり、結婚したらもっと堕落させるから、とハゴロモで過ごしはじめた頃のようにマツリカを甘くやさしく誘惑する。

「マツリカ、マリカー、マツリーカ……」
「なあに、カナト」
「キスしたい」
「いいよ。して?」
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