若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
   * * *

 結婚式でマツリカが選んだのはマーメイドラインのすっきりしたドレスだった。マイルに着せられたふりふりのドレスは自分には似合わないと、カナトとふたりで決めたものだ。

「マツリカは俺の人魚姫だから誰にも渡さないよ。泡になんかさせてやらない」
「……カナト」

 海が見えるホテルのチャペルで挙式と披露宴を行った後、参列者に見守られるなかドレスとタキシードのままプライベートジェットに乗せられたふたりはいま、およそ十五年ぶりのシンガポールに降り立っている。ハワイからシンガポールまでのフライトには丸一日かかったが、飛行機内でゆっくり睡眠をとれたこともあり疲労が溜まることはなかった。
 時刻は深夜十一時。星空のしたでシンガポール海峡のタンカービューはあのときと同じようにライトアップされていた。
 飛行機を降りたカナトは、ドレス姿のマツリカをお姫様抱っこしたまま車に乗り込み本日の宿泊場所へと向かう。背後で控えている護衛たちは万感の想いでふたりの背中を見送っていた。

「ああ、早く貴女を可愛がりたい……」
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