若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
《2》
「え、じゃありいかお正月日本に帰ってくるの? やったー!」
「どうせマイくん仕事でしょ?」
「りいかのためならスケジュール空けておくよ! だって次に日本にいつ来るかわかんねぇじゃん」
豪華客船『羽衣 ―hagoromo―』で行くロサンジェルス発東京着、南太平洋をめぐる72泊73日のスペシャルクリスマスクルーズと称された周航の船上コンシェルジュとして同行を命じられたマツリカがその旨を伝えれば、東京で暮らす義理の弟が嬉しそうな反応を見せる。
城崎浬。マツリカとは血のつながりを持たない義理の弟にあたる。義父である清一郎の前妻の息子で、マツリカと学年は変わらないのだが、彼の方が早生まれになるため城崎家の弟ポジションに甘んじている。彼がマツリカのことをりいかと呼ぶのは子どもの頃彼女が「あたし、りいか!」と自己紹介したからだ。もう社会人になったんだからりいかはやめてよと言ったところで彼はやめてくれない。それならお前もオレのことマイくんじゃなくてマイルって呼べ、と言い返すのが常だからだ。