若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
「そ。今回のクルーズ、日本人の超VIPが乗船されるとかで日本語が堪能なスタッフをあちこちで集めてるらしいの。キザキちゃんもその件で呼ばれたんでしょ?」
「はい……って、ナンデスカ超VIPって」
「西島さんから聞いてない? リニューアル後のハゴロモの初就航を記念して、って名のもとに鳥海の海運王の視察が」
「き・い・て・な・い・で・す」

 ふぁっ!? と顔色を変えるマツリカに、ミユキことジェファーソン深雪がイタズラが成功した子どものようにニヤリと笑う。

「やっぱり聞いてなかったかぁー、ほかの添乗員にはまだ詳細伝えてないってチーフも言ってたし。キザキちゃんなら事前に知らせても問題ないと思うんだけどなぁ」

 BPW社に就職して現地で結婚相手を見つけたミユキは二十八歳のキャリアウーマンだ。マルチリンガルなマツリカ同様、英語と日本語とドイツ語のトリリンガルだというミユキは彼女の耳元でこっそりとつぶやく。

「ちょっとそれどういうことですか。鳥海の海運王って……!?」
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