若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 会社は事故を起こした双方の船長に処分を下しただけで賠償金を出し渋った。同じ鳥海海運が所有する船同士の不慮の事故だからだ。それでも重油漏れを起こしたケミカルタンカーには海域汚染の損害賠償が発生している。貨物船への補填はすぐさま行われたが、死者を出したケミカルタンカー側の処遇はなかなか決着がつかなかった。あげくのはてに死者を出したにもかかわらず航海士の死はなかったものにされかけたのだ。
 はじめからナガタニなどという航海士は乗っていなかったと。これを疑問に思ったマツリカの母、奈月が訴えを起こした。
 その後、社長の方向転換によって事態は急展開し、遺族としての和解が成立する。一応の収束は見せたものの、それでも鳥海のブランドイメージは一気に落ちたし、奈月もお金で黙らせた鳥海海運そのものに失望し、娘のために城崎との結婚へ舵を切り替えたのだ――鳥海海運のライバルともいえる海運業界第五位のキャッスルシーの設立者である城崎清一郎と。
 そんなわけで何かと因縁のある会社だが、マツリカが鳥海海運の孫会社とも呼べるBPWにいるのもまさしくそれが理由である。
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