若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
スコールが降ったこともあり、海は透明度に欠けていた。それでも泳いでいる家族連れやカップルの姿がちらほら見える。夜七時までは近隣施設の監視員が交代で勤務しているというから、この地域特有の厳しい日差しを避けていまの時間に海水浴をしている客もいるようだ。
「カナトさま」
「伊瀬。ついてこなくて大丈夫。ひと泳ぎしたらすぐ戻るよ」
十歳にしては大人びた、闇夜を彷彿させるサラサラの髪と黒い宝石のような瞳が父親の腹心の部下である伊瀬を見上げる。日本に残してきた母親にそっくりな息子の凛とした表情を前に、伊瀬はこくりと頷く。
「かしこまりました。あまり遠くには行かないでくださいね」
「わかっている。遊泳禁止区域には入らない」
押し寄せてくる波が夕陽に照らされてキラキラしている。
橙色に染まった海に入ったカナトは、水深が読めない濁った海面に怖気づくこともなく、砂浜から離れていった。
「カナトさま」
「伊瀬。ついてこなくて大丈夫。ひと泳ぎしたらすぐ戻るよ」
十歳にしては大人びた、闇夜を彷彿させるサラサラの髪と黒い宝石のような瞳が父親の腹心の部下である伊瀬を見上げる。日本に残してきた母親にそっくりな息子の凛とした表情を前に、伊瀬はこくりと頷く。
「かしこまりました。あまり遠くには行かないでくださいね」
「わかっている。遊泳禁止区域には入らない」
押し寄せてくる波が夕陽に照らされてキラキラしている。
橙色に染まった海に入ったカナトは、水深が読めない濁った海面に怖気づくこともなく、砂浜から離れていった。