若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい

　その娘はなぜか鳥海海運の孫会社であるBPWで船上コンシェルジュの仕事をしているという。
　先日、中谷真理香が教えてくれた情報を精査したカナトは、ようやく彼女の本名が「マツリーカ」でも「マリカー」でもなく「マツリカ」だったことを知ったのだ。
　城崎祭花。死んだ実父によってフェスティバル・フラワーと名付けられた彼女は、自分のことを「まつりいか」とたどたどしく口にしていた彼女は、カナトのことを覚えているだろうか。

「長谷奈月がうちからの慰謝料を持って城崎清一郎と再婚したってきいたときは足元が真っ暗になったぞ……まさか彼女があの女の娘だったとはな」
「その長谷奈月……いえ、城崎奈月も三年ほど前に亡くなっております。娘と清一郎の接点は現状ではほとんど見当たりません」
「それでも彼女はアヤシイとお前は言うんだな」
「彼女がキャッスルシーで勤務せず、アメリカにある我々の孫会社であるBPWの海上職を勤めているところからして、胡散臭いではないですか」
「なぜ親の会社に入らず外国にあるライバル会社の孫会社にわざわざいるのか、って？　たまたまだろ」