若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
「若き海運王さま直々にハゴロモの視察をなさるとのことですね、それはありがたい!」

 好々爺然とした西島の登場に、まさかこうなることを想定していたのか、と愕然とするカナトだったが、ずっと迎えに行くと約束した初恋の彼女にようやく手が届きそうな予感には抗えない。

「ああ。よろしく頼むよ、西島さん」
「光栄です、若き海運王」

 ハゴロモのコンシェルジュを差配している西島は高齢の海運王ではなく若き海運王が代わりに船に乗ることに浮足立っているようだ。

「それで、ひとつ頼みがあるのだが……」

 父親には船旅を諦めてもらって年末年始をカジノで過ごしてもらえばいい。そのあいだに会社を揺るがす疑惑を潰し、初恋の彼女を手に入れたい。そう考えればハロウィンからクリスマス、ニューイヤーまで一緒に過ごせる72泊73日の長期間豪華客船クルーズは恋の舞台に最適だ。
 カナトは笑いを嚙み殺しながら、西島とはなしを詰めていくのであった。
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