若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
   * * *

 船上コンシェルジュとして海上職勤務となったマツリカにとって、今回の長期間クルーズはいままでにない規模のものになる。
 そもそもコンシェルジュとはフランス語で「アパルトマンの管理人」という意味を持つ。語源となるフランス語の意味は「門番」「守衛」「万人」とされており英語圏でも当たり前のように使用されているが、時代とともに言葉の解釈が深まりいつしか「総合世話係」として定着していく。日本でもホテルコンシェルジュやマンションコンシェルジュなどという役職が一般的になっており、マツリカの会社でもクルーズの添乗員のことをコンシェルジュという名称で統一している。

「とはいえ豪華客船の壁みたいなものだからね、そう息まなくても大丈夫だって」
「ミユキ先輩は何度か世界一周クルーズに随行した経験があるからそう言えるんです! あたし初めてなんですよ。入社一年目でこんな無茶ぶりされるなんて思わなかったんですけどっ」
「歩く自動翻訳機が何言ってるの。乗客と円滑なコミュニケーションを取りながら心地よい空間を演出するのが我々何でも屋、コンシェルジュの仕事じゃない」
「でもぉ」
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