若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
* * *
七歳のマツリカにとって、ビーチは遊び場のひとつでしかなかった。ふだんはシンガポールの日本人学校に通っている彼女だが、バケーション期間は毎日のように海で遊んでいる。まるで近所の公園のように父や母、ときに学校の友人や家族を巻き込んで砂浜で走り回るのだ。
この日は久々に休暇が取れた父に連れられてなかなか行くことのない高級リゾート地として知られているタンジョン・ビーチまで足をのばしていた。直前に降ったスコールのせいで、海面はすこし不機嫌そうに見えたが、泳ぐ分にはなんの問題もないだろうとマツリカは期待に満ちた瞳を向けている。
日に焼けた健康的な褐色の肌に明るい茶色の髪を持つ彼女はアダンの木の下で素早くシャツを脱ぎ、水着になって走っていく。
「マリカー、あまり遠くまで行くなよ」
「わかってるって!」
白い星のような形の花を模した水着の少女が橙色に染め上げられた海に飛び込んでいく。
このときの彼女は油断していたのだ。
ふだんの海水浴場と同じで、ここも海水は濁っているけれど水深はたいしたことない、と……
七歳のマツリカにとって、ビーチは遊び場のひとつでしかなかった。ふだんはシンガポールの日本人学校に通っている彼女だが、バケーション期間は毎日のように海で遊んでいる。まるで近所の公園のように父や母、ときに学校の友人や家族を巻き込んで砂浜で走り回るのだ。
この日は久々に休暇が取れた父に連れられてなかなか行くことのない高級リゾート地として知られているタンジョン・ビーチまで足をのばしていた。直前に降ったスコールのせいで、海面はすこし不機嫌そうに見えたが、泳ぐ分にはなんの問題もないだろうとマツリカは期待に満ちた瞳を向けている。
日に焼けた健康的な褐色の肌に明るい茶色の髪を持つ彼女はアダンの木の下で素早くシャツを脱ぎ、水着になって走っていく。
「マリカー、あまり遠くまで行くなよ」
「わかってるって!」
白い星のような形の花を模した水着の少女が橙色に染め上げられた海に飛び込んでいく。
このときの彼女は油断していたのだ。
ふだんの海水浴場と同じで、ここも海水は濁っているけれど水深はたいしたことない、と……