若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 喉元まででかかった感情が何かわからない。ただ、明日からぜったいに失敗できない仕事がはじまるというのに、こんなところで心を乱してしまう自分に混乱している。このままホテルで寝てしまえばいいだろうと思ったのに、エントランスロビーで問い合わせれば一番安い部屋は満室だとスタッフに言われてしまった。事前にチェックしなかった自分が悪いのだが、NYを発つまでバタバタしていたのだから仕方がない。素泊まりに高いお金はかけられないし、そうなるといまからほかのホテルに向かうしかない、けど……
 フロントで困っているマツリカに気づいたのか、彼はホテルスタッフの前でとんでもないことを口にする。

「――Change the reserved room to a suite」

 ――は? スイートルームに部屋を変更しろ、って……? どういう……?
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