若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
   * * *

 十月二十八日午後六時。
 ハロウィンシーズンのアメリカ、ロサンジェルスロングビーチから南太平洋の島々をめぐり海上で南国風クリスマスを過ごし、日本でお正月を迎えるというスペシャルなクルーズが満を持してスタートした。
 出港したばかりの豪華客船『羽衣 ―hagoromo―』には七百名を越える乗客と五百人ちかい乗組員が乗船している。そのうちの多くが到着地である東京で正月休みを過ごすリタイアした日本人夫婦やアメリカ人の富裕層だ。日本語がはなせるスタッフとしてマツリカはミユキとともにレセプションを担当し、二十四時間体制で交代しながらあわただしく働いていた。

「……なんだか思っていたよりもバタバタしますね」
「そりゃあ、船のなかに七百名のお客様が乗ってらっしゃるんですもの、ひとりひとりの要望に応えていくとなるとかなり労力つかうわよ」

 げんざい船はアメリカ合衆国カウアイ島ナウィリウィリを通過、明日にはオアフ島に寄港する。ハワイのなかでも日本人旅行者が群を抜いて多い州都ホノルルで、船から降りた乗客はそれぞれ観光を楽しむことになるだろう。
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