若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 前泊のホテルの部屋を取り損ねたマツリカにその場でスイートルームを手配してくれた男性(ヒト)。彼のおかげでマツリカは前日の夜に慌てることなく英気を養うことができた。
 商談を終えてこのハゴロモに乗ってゆっくり船旅を満喫しながら東京に向かうと言っていた彼はいったい何者なのだろう。この豪華客船に乗ることができるだけの財力を持っているということだからきっと若手の実業家か、どこかの御曹司か……

「キザキちゃん、西島さんからなにか聞いた?」
「お忍びでいらしてる鳥海の海運王についてですか?」

 ミユキから話題を振られて思わず食いつくように声をあげてしまったマツリカを見て、彼女はくすくす笑う。

「やっぱりこの船のオーナーともなるとわたしたちみたいな下っ端とはかかわりたくないのかしらね。総支配人がいうにはプレミアムスイートがある最上階で優雅に過ごしてるみたいよ」
「ぷれみあむすいーと……」

 まさしく天上人だなあとマツリカはため息をつく。やはりそう簡単には近づけないということか。
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