若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
いっぽう、ひとりで黄昏時の海を泳いでいたマツリカも同じように器用に泳ぐ少年の姿に驚いていた。きっと観光客だ。黒髪黒目だからアジア系だろうか。そろそろ遊泳禁止時間になるけど、こんな遠くまでひとりで泳いでいるなんてそれだけ泳ぎに自信があるのだろう。波打つ海で魚のように泳ぐ彼の姿に、マツリカは胸をときめかせていた。
日没が近いこともあり、雨上がりに浜辺に出ていた観光客もビーチハウスや宿泊先のホテルへと戻りはじめている。マツリカもそろそろ父親が心配するだろうからと浜辺に向き直ったところで、少年を見つけた。まだ泳いでいるのかな。
ひょいと手招きをすると、少年がこちらを向く。何か喋っている。英語だろうか。聞こえないよ、とマツリカが彼の方へ足を進めたその刹那。
「危ない!」
ふだんよりも勢いのある波に飲み込まれ、身体が海面に叩きつけられてしまう。
日本の海とさほど変わらない濁った海は、ほんのすこし足を動かすだけで深さが異なる一面を持っていた。
カナトは海水のなかに姿を消した少女を追いかけ、波に反発するように泳いでいく。
日没が近いこともあり、雨上がりに浜辺に出ていた観光客もビーチハウスや宿泊先のホテルへと戻りはじめている。マツリカもそろそろ父親が心配するだろうからと浜辺に向き直ったところで、少年を見つけた。まだ泳いでいるのかな。
ひょいと手招きをすると、少年がこちらを向く。何か喋っている。英語だろうか。聞こえないよ、とマツリカが彼の方へ足を進めたその刹那。
「危ない!」
ふだんよりも勢いのある波に飲み込まれ、身体が海面に叩きつけられてしまう。
日本の海とさほど変わらない濁った海は、ほんのすこし足を動かすだけで深さが異なる一面を持っていた。
カナトは海水のなかに姿を消した少女を追いかけ、波に反発するように泳いでいく。