若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
   * * *

 ハゴロモの総合玄関口であるレセプションデスクとは別に、お忍びで滞在している上客向けに小規模ながらも配置されているのが最上階にあるプレミアムレセプションデスクだ。そもそもマツリカのような新人コンシェルジュが担当するような場所ではないはずだが……

「おお来たか『歩く自動翻訳機』!」
餘江(あまりえ)支配人?」
「たしか華語できたよな? あちらの方を部屋まで送り届けてほしい」
「はいっ?」

 そしてひょい、と渡されたのは、餅のように柔らかい子どもの手……あちらの方と餘江は言っているがどこからどう見ても三歳前後の子どもである。漆黒の中華風の詰め襟を着た男の子はきょとんとした顔でマツリカの青みがかった瞳を見ている。

「迷子ですか!?」
「どうも英語がわからないらしい。わしの北京語には反応してくれたんだがいかんせんうまく聞き取れないみたいでな」
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