若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 餘江が姿を消すのを見届けてから、マツリカは子どもに目線を合わせて問いかける。
 彼はもじもじしながら自分のてのひらをつかって数字の「四」を指し示した。つづけて「お名前は?」と短く、わかりやすくマツリカは訊いていく。
 彼の名前は浩宇(ハオ・ユー)、どうやら台湾在住らしい。

「そっかー、パパとママとはぐれちゃったんだね。一緒に探しに行こうか」

 こくりと頷く浩宇の手を取って、マツリカは階下へつづく螺旋階段を降りていく。
 レセプションデスクに迷子の問い合わせが来ているかもしれない。名前がわかればこちらから呼び出すことも可能だ。
 異国語が飛び交う豪華客船の内部で迷子になった子どもは不安そうな表情を浮かべていたがマツリカの発音をきくうちに安心したのか可愛らしい笑顔を浮かべている。

「浩宇くんは船に乗るのはじめて? おおきくてびっくりしたでしょ」
「うん」
「明日はハワイのホノルルってところに到着するからね。たくさん遊んできてね」
「ん……マーマー!」

 レセプションデスクに戻るまでもなく、階段を下りたところでミユキがマツリカを呼び止め浩宇の母親を連れてきてくれていた。
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