若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
「それはどうかしら。迷子のお手伝いに行ったらその先で若き海運王に見初められたキザキちゃんならワンチャンあるんじゃない?」
「そそそんなわけないじゃないですか、だいいちあたし彼がどんなひとかも知らな……」

「忘れてしまったのかい、まつりいか」

 ほとんど量のない荷物を無造作にキャリーバッグに詰め込んだマツリカは、慌てて声がした方向に顔を向ける。黒髪黒目の背の高い男性が彼女を見つけて破顔する。

「待ちわびて迎えに来てしまったよ。もう、準備はできているだろう?」
「――あなた、LAでホテルの部屋をとってくださった……?」

 ブラックダイヤモンドを彷彿させる黒い瞳に射抜かれてマツリカは凍りつく。
 船内で寛いでいるからか、服装は飛行機に乗っていたときよりもラフなものだけれど、上質なシャツとブランドもののチノパンで存在感を醸し出していた。
 彼の正体に気づいたミユキが慌てて声をあげ、マツリカを小突く。

「ちょっと海運王サマ直々にご登場じゃない!?」
「海運王……?」

 え、どういうこと? と救いを求めるようにマツリカが青年を眇れば、カナトが困惑したように己の名を口にする。
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