若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
「鳥海海運の航海士の娘だった貴女は母親の再婚でライバル企業の社長令嬢になったはずだ。どうして今になってBPWでコンシェルジュをしている?」
「……それを知ってどうなさるのです」

 あくまで他人行儀に言い返すマツリカに苛立ったのか、カナトはすたすたと一方的に歩き出し、最奥にあるプレミアムスイートの扉をカードキーで素早くひらく。自分の荷物が入っているキャリーバッグを一緒に運ばれ、慌てて彼女も部屋のなかへ飛び込んで――……

「あ」

 カチャリ、とロックが掛かる。
 施錠音を確認したカナトは、戸惑うマツリカを前ににこやかに笑う。

「これで、逃げられないね」
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