若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
   * * *

 ロサンジェルスのホテルでは紳士的な態度をとっていたカナトだったが、自分のテリトリーへ彼女を招き入れたことで彼はすっかり舞い上がっていた。
 唖然とするマツリカの腕を引き、豪奢なソファへ座らせる。自分は客人ではないのだからと拒もうとする彼女だったが、カナトが「イヤなら押し倒すまでだ」とさらりと脅してきたため、しぶしぶ抵抗を諦めた。ふかふかのソファに沈み込んだマツリカを見届けて、彼は満足そうに応接テーブルで向かい合った牛革のスツールに腰かけて脚を組む。脚が長い。まるでモデルみたいだなと場違いなことを考えていたマツリカを前に、カナトは嗤う。

「その様子だと状況を理解できていないみたいだね」
「……身体での接待はサービスの対象外ですよ」
「ひどいことを言うね。俺が貴女を身体目当てで指名した、なんて……それならLAでとっくに味見していたよ」
「ッ」

 最低だ。あのときのときめきを返してほしい。
 若き海運王はけっきょく女遊びに夢中のボンボンでしかないのだろうか。
 カナトはつまらなそうにマツリカを見て、さらに冷たい言葉を浴びせる。
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