若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 プレミアムレセプションデスクに勤務するコンシェルジュには最上階にある個人向け(プライベート)のスタッフルームがあったはずだ。てっきりカナトはマツリカの荷物をそちらに運んでいくものだと思っていたのに、なぜか彼は自分が滞在しているプレミアムスイートにマツリカを連れ込んで、鍵をかけてしまった。逃げるも何も、上から命じられたマツリカは彼専属のコンシェルジュとして残り約二か月間のクルーズをともにすることしか選べないというのに……不服そうな表情が顔に出てしまったのだろう、カナトがはぁとため息をつく。
 ため息をつきたいのは自分の方なのにと呆れるマツリカだったが、これ以上彼を怒らせたら危険だと悟り、口を噤む。

「城崎祭花。今夜から東京に到着するまでの約二か月間、貴女は俺の、俺専属のコンシェルジュだ」
「存じております」
「ならば質問にこたえてくれ。国内海運業界五位のキャッスルシーの社長令嬢である貴女がなぜ俺の孫会社で働いている?」

 部屋に入る前に問われたことを再度、質問されたマツリカはすう、と深呼吸をしてから、言葉を紡ぐ。
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