若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい

《5》


 ――死んだ父のことを知りたかった。

 そう、訥々と語りだしたマツリカを前に、カナトの厳しい表情はすっかり鳴りを潜めていた。
 彼は「十五年前……冬のことか」とだけ言って、黙り込んでしまう。

「カナトさま?」
「アフリカ沖で海流に巻き込まれて起きたあの事故は誰にも予測できなかったはずだ。貴女の父親がその事故の唯一の犠牲者となったのは俺も知っているが……復讐をするでもなく、十五年前の事故のことを知りたいために、わざわざBWPでの勤務を決めたのか?」
「はい。亡き父が勤めていた鳥海海運とも縁があるというBPWにあたしが就職したのは、彼が航海士としてどのような仕事をしていたのか、知りたかったから。そしてどうして死んでしまったのか。父親のように海で働いたら、わかるんじゃないかと考えたんです」
「父親の痕跡を探すため、か……」
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