アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました

   ◇

 建物に挟まれた路地の向こうに凱旋門が見えてきた。

 狭い路地を塞ぐようにフェラーリが止まっている。

 ネイビーブルーの扉を押して中庭に入る。

 ――よかった。

 いた。

 アランさんはお店にいた。

 テレビのニュース映像を見ている。

「なんだ、あんたか」

 アランさんは私の顔を見て唇をゆがめながら笑みを浮かべた。

 息が苦しい。

「ミレイユさんは……。ミレイユさんに会わせてください」

「会ってどうする。今さら」

「私たちの結婚は成立していないんです。だから、元通りにしてもらえるように頼んでみます」

「結婚? どうして?」

「日本からまだ書類を取り寄せていないので結婚が正式には成立してないはずです」

「そんなのミレイユにはどうでもいいことなんじゃないか。それに、話はもうあいつだけの問題じゃないみたいだぜ」

 アランさんがテレビを指した。

「ジャンが会社から追い出した旧役員も動いているらしいぞ。株式の譲渡をボワイエ財閥と交渉中、ラファイエット・グループの経営権を掌握か、だとよ。つまり、逆にあいつが会社を追い出されるってわけだ。それはそうだな。将来の婿だから社長として経営を任せてたんだ。その前提が崩れたら契約の変更は仕方がないだろうな」

「だから、それをなんとか思いとどまってもらえないかお願いしてみます」

「手遅れだよ。そんなことしてもどうにもならないさ」

「ミレイユさんにジャンと別れると言います。それがジャンのためなら……」

 アランさんが鼻で笑う。

「あいつのこと、愛してないのか?」

 私は言葉に詰まってしまった。

 言えなかった。

 この期に及んでも私は言えなかった。

 でも、時間がない。

 こうしてはいられない。

 急がないと。

「愛して……ます。でも、私のせいで破産させてしまいたくないから。すべてを白紙にして日本に帰ります」

「なるほど、それがあんたの愛の形ってわけか」

 アランさんがドアに向かって歩き出す。

「来いよ。連れてってやるよ」

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