アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
◇
アランさんが私の荷物をフェラーリに入れてくれた。
後ろを開けるのかと思ったら、前だった。
「エンジンが後ろだからな」
スマホみたいに薄いボディだからラゲッジスペースも狭くて、そんなに大きくない荷物がギリギリ収まった。
背中でエンジンが吠えてパリの街を走り出す。
もう見ることもない景色に私はさよならを告げた。
車は市街地から郊外へ向かう。
鉄道の車両基地や工場が並ぶ地域に入る。
「ミレイユさんは今どこにいるんですか」
「さあな」
え?
フェラーリが急停車した。
人通りのない倉庫の路地裏だ。
「ここにいるんですか?」
アランさんがシートベルトを外す。
「いるわけないだろ」
と、いきなり私にのしかかってきた。
狭い車内で逃げ場がない。
シートも倒されてしまった。
「な、何をするんですか」
「馬鹿な女だ」と、下卑た笑みを浮かべながらシャツをはだける。
胸毛から野獣の匂いが立ち上る。
ベルトのバックルに手をかけてカチャカチャと音を立てる。
「あんたなんにも分かってねえな。あんたに本物の男ってやつを教えてやるよ」
彼の手が固く閉じた私の内ももに差し込まれ、押し開こうとする。
「やめてください」
「騒いだって無駄だ。誰もいねえよ」
――助けて、ジャン!
ごめんなさい。
私、あなたのことを信じてあげられなかった。
あなたは私を愛してくれたのに。
「ふん、久しぶりだな、日本の女を味わうのは」
ざらつく髭が私の頬をこする。
獣のような体臭に押しつぶされて、固く目をつむる以外、私にできることはなかった。
ジャン……、ごめんなさい。
――助けて……。
ジャンと出会ったときからの出来事が頭の中に広がる。
彼の笑顔、彼のぬくもり、ケンカしたことですら愛おしい。
なのに、私……。
後悔の念が膨らんで意識が遠のいていく。
最後に思い浮かんだのは寂しそうなジャンの後ろ姿だった。