アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
「あとね、うちの父は手を引いたけど、私が個人で出資するわ」と、ミレイユが髪をかき上げる。「ミケーレと私で株式の過半数を抑えさせてもらうけど、経営再建はそのままあんたに任せるから」

「いいのか?」

「だって、あんたたちだけ幸せになるなんて許せないもの。少しぐらい重荷を背負わせなくっちゃ。できるもんならやってみなさいよ。その代わり、期限は三年。それ以内に黒字化できなかったら、あんたはお払い箱。いいわね」

「ああ、なんとかしてみるよ」

「なんとかじゃないのよ。あんたはユリを幸せにする覚悟はできてるの?」

「もちろんだよ」

「この場で誓いなさい。三年以内に黒字化。あと、浮気はしない」

「それはできないよ」

「なんでよ?」

「僕には浮気なんかできない」

 ミレイユが口を曲げてユリにウィンクする。

「ね、こういう男だからやなのよ」

 ――悪かったな、相性最悪の男で。

 しかし、やれやれ、しかたがない、東京へ行ってくるか。

 ずいぶん久しぶりだな。

 ――トントン。

 ん?

 今度は誰だ?

 なんだ、ユリか。

「なんだい?」

 彼女が腕を広げて目を閉じる。

 おいおい。

 待ってくれよ。

 ここで……か?

 ゲートを塞ぐ僕らを、みんなが注目している。

 めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないか。

 あれだけ騒いだ自分がいけないんだけどな。

 こういうのを日本語で『バチが当たる』って言うんだろ。

 ユリが唇を突き出す。

 分かりましたよ。

 覚悟しろって言うんだろ。

「結婚、おめでとう!」

 ミレイユの拍手とアランの指笛につられてまわりの旅客たちからも拍手や口笛が浴びせられる。

 まったく、フランス人ってやつは……。

 熱いキスがお好きなようで。

「愛してるよ、ユリ」

「私も、ジャン」

 まあ、いいか。

 C'est l'amour.

 これが僕らの愛の形。

 そういうことなんだろ。
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