アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
 気まずくならないようにそっと手を離そうとしたとき、ジャンの手に力がこもった。

 私たちは見つめ合っていた。

 彼の目が真剣だ。

「でもね、瞬間と永遠に違いはないんですよ。今この瞬間を重ねていけば永遠になる。永遠を作るのは今のこの瞬間なんです。今この瞬間の僕の言葉に嘘はありません。今もこの先も永遠に」

 急に哲学的になったけど、ちょっと意味ありげな言葉を並べただけかもしれない。

 だまされちゃいけないという警報が頭の中に鳴り響く。

 私は地味子。

 恋愛漫画では、アシスタントの人が描くモブ子なんだから。

 背景に溶け込まなくちゃ。

 車は闇の中を滑るように進んでいく。

 私はシートに座り直す流れでジャンの手をそっと離した。

 すると、彼も正面を向きながら思いがけないことを言い始めた。

「ユリ、正直に言うよ。僕は君に一目惚れしてしまったんだ」

 私は言葉を失っていた。

 日本語で言われているのに理解できない。

 辞書にない言葉で受け止めきれない。

 ナポレオンの辞書には『不可能』という言葉はなかったらしいけど、私の辞書には『恋愛イコール不可能』という説明しかない。

「おかしいかな?」

 ジャンが不安げに私を見る。

「いえ、そういうわけじゃ」

「僕は真面目だよ。真剣だ。本気なんだ」

 そう言われれば言われるほど今のこの現実が遠ざかっていくような感覚に囚われる。

「急に言われても」

「ユリは僕のことが嫌い?」

「でも、その……知り合ったばかりですし」

 それに、私は恋なんかできない女。

 ずっとそのつもりで生きてきた。

 今までも、これからも。

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