アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
 それでもジャンはたたみかけてくる。

「僕には分かるんだ。君は運命の人だよ」

 その根拠は?

 ――なんて聞けなかった。

 本気なんだろうか。

 私みたいな女じゃなくても、もっときれいで性格も明るくて積極的な人はいくらでもいる。

 わざわざ私を選ぶ意味が分からない。

「こんな気持ちになったのは初めてなんだ。三十年生きてきて、初めて分かったんだ。君なんだって」

 私と同じ年月を生きてきて、なんで私なの?

 他にも素敵な人はいたでしょうに。

「ユリ、君の気持ちを聞かせてくれないか」

 はっきりとした返事をしない私に、肘掛けから身を乗り出してジャンが迫ってこようとした。

 シャンパンのグラスを倒しそうになって、彼はいったん冷静になったようだった。

「すみません。急に言われて困ってしまって」

「いや、あやまらないで」と、ジャンが人差し指を振る。「こちらこそ、突然すまなかった。ただ、恋はいつでも急だからね。それが今だっただけなんだ。僕だって冷静になるのが難しいよ」

 彼はまたシートに体を預けて軽く天井を見上げながらつぶやいた。

「ユリ、お願いがある」

「何ですか?」

 私にできることなんてあるだろうか?

「少しの間でいい。恋人のふりをしてくれないかな」

 コイビト?

 えっと、それって……。

「だめかな? 恋人のつもりになって、そして僕を知ってほしい」

 正直嫌ではない。

 むしろ、私だってジャンに好意を抱いている。

 ただ、どうしてもブレーキがかかってしまうだけだ。

 でも、恋人のふりをするのなら、演技でいいのならそんなに身構えなくてもいいのかもしれない。

 お試しのおつきあい。

 悪くないかも。

 なんて……私、なんで上から目線なんだろう。

 慣れてないからしょうがないんですよ、こういうことに……。

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