アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
 いつの間にか炎を燃え上がらせていた彼がその情熱で私の中に灯をともす。

 痛みなんかない。

 そこにはもう喜びしかなかった。

 私は彼の名を呼んでいた。

 彼も私の名を呼んでいる。

「君の前ではこんなに愚かな僕を許してくれ」

 背中を丸めながら私の胸に顔をうずめた彼がそうつぶやく。

 私は子供をあやすように彼の頭をかきなでた。

 レースのカーテンを透かして差し込む朝の光が彼の栗色の髪をきらめかせ、火照った背中を無防備にさらけ出す。

 オーケストラを指揮するように彼が私をかき乱し、されるがままに快楽の波が私を押し流していく。

 知らなかった。

 こんなこと知らなかった。

 何も知らなかった。

 彼がすべて教えてくれた。

 私は押し寄せる快楽に身を委ね、彼に溺れていた。

 腕を伸ばして私を押さえつけた彼が顎を上げて切なそうな表情であえぐ。

 快楽の絶頂に達した至福とそれを断ち切られた絶望で彼が私に崩れ落ちてくる。

 ――ユリ……。

 ベッドに転がった彼が腕を伸ばして私の頭を抱き寄せる。

 その腕枕に顔を埋めながら私は彼の背中に手を回した。

 言葉なんかいらない。

 言葉にすれば嘘になる。

 私が手にしているこの幸せ。

 それを表現するのは言葉なんかじゃない。

 私を見つめる彼のぬくもりだけ。

 信じられるのはただそれだけでいい。

 窓から吹き込んできたそよ風にレースのカーテンが揺れている。

 ジャンが薄手のブランケットで私の体を繭のように包んでくれる。

 この穏やかな時間がいつまでも続くことを私は信じていたかった。

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