アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
 と、そこへチーズが運ばれてきた。

 トレイにのった何種類からか選ぶようだけど、私は全然詳しくないから分からない。

「じゃあ、おまかせでいいかな」

「はい、お願いします」

「日本人はあまり匂いのきついのは苦手だけど、どうだろう」

「せっかくなので、ふだんあまり食べない物を試してみてもいいかも」

 ジャンはうれしそうに給仕の男性にオーダーしている。

 盛りつけられたのは三種類。

 カマンベールに蜂蜜、ロックフォールにキャラメリゼしたリンゴとカシューナッツ、クリームチーズにラム酒漬けのドライいちじく。

「このクリームチーズはなんていう種類ですか?」

「日本のスーパーでも売ってるんじゃないかな」

 言われた銘柄は確かによく見かけるし、子供が食べそうな一般的ブランドだった。

 でも、ドライフルーツと一緒だと、おしゃれに見えるから不思議。

 カマンベールは日本で食べるのとはひと味違っていた。

 ロックフォールは食べたことがなかったけど、塩気とリンゴの甘みと、ナッツの食感がリズミカルでおもしろかった。

「チーズをこんな風に食べたのは初めてですけど、楽しいですね」

「食べているときのユリの表情を見てるとこっちもうれしくなるよ」

 やだ、食いしん坊だったかな。

 そして、いよいよデザートが登場。

 意外にも、シンプルなチョコレートムースだった。

 お皿にはラズベリーソースが添えられているけど、それだけだ。

 でも、一口食べたら思わず手で口元を押さえてしまった。

「ものすごく濃厚ですね。舌触りは滑らかなのに。ちょっと油断しました」

「もっと驚くことがあるかも」

 え?

「ほら、デザートの中にプレゼントとか」

「あるんですか?」

「ごめん。ないよ」

 はあ、なんなの、この話。

「いや、ごめん。サプライズって、失敗しやすいだろ。気づかずに食べちゃったら大問題だし」

「もしかして、実体験……とか?」

「い、いや、ち、違うよ」と、耳が赤く染まる。「やろうとして、クロードに止められた」

 おじさま、グッジョブ。

「『誠意ある男性はそのような演出などなさいません』って、怒られたよ」

 うん、ますますおじさま素敵。

 そして、コーヒーが運ばれてきて食事が終わった。

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