アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
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連れていかれたのは城館の隅に突き出した円筒形の建物だった。
廊下の一番奥にあたる場所に、花模様の浮き彫りが金色に縁取られた木製の扉があって、私を抱きかかえたままもどかしげにジャンが取っ手を引く。
下ろしてくれてもいいのに。
せっかちな王子様。
入ってすぐそばの壁を肘で探ってジャンが明かりをつけた。
彼の腕の中で天井を見上げる姿勢だった私は、まぶしさに思わず一瞬目を閉じてしまった。
「ここが僕らの愛の巣だよ」
明かりに慣れてきて目に入った光景に私は思わず息をのんだ。
大粒のクリスタルがきらめくシャンデリアに照らし出された部屋の中は、まさに貴族の生活をそのまま切り取ってきたような雰囲気だった。
まずは部屋の中央に置かれた天蓋付きのダブルベッドに目を奪われる。
軽やかなレースのカーテンに包まれた秘密の空間には大きな枕が二つ並べられている。
部屋の壁には大小様々な絵画が飾られている。
豊満な肉体の女性が森の中で横たわっている絵は、流れるようなタッチが特徴的で似たような作品をオルセーで見たことがあるような気がした。
もしかして、ルノワール?
「これは全部本物?」
私がたずねると、ジャンはなんでもないことのようにうなずいた。
「もちろん。昔からここにあったものだよ」
いったいいくらくらいするんだろう。
他のもなんだか美術の教科書で見たことのあるような絵ばかりだ。
セザンヌ、モネといった印象派だけでなく、少女の顔の部分だけを描いたアングルの習作に、ドガのパステルもある。
そんな美術品が無造作に飾られた部屋を日常生活の場にしているなんて、やっぱり私とは住む世界が違うんだな。
落胆を悟られないように私は努めて笑顔を絶やさないようにしていた。
彼が私をベッドへ連れていく。
そっと横たえると、上着を脱ぎ捨て、シャツのボタンを引きちぎる勢いでシャツの前をはだける。
ミケランジェロの彫刻に命が宿ったような肉体が私を見下ろしていた。
彼の前ではこの部屋のどんな美術品も霞んでしまう。
俊敏な獣のように精悍で獰猛。
私をベッドに押さえつける彼の視線が熱い。
なのにその瞳は冷たい湖。
「僕だけを見て」
言われなくても目が離せない。
もう彼しか見えない。
「君しか見えない」
彼の声しか聞こえない。
「君だけしか見えないよ」
その瞬間、彼の腕に力がこもり、私はきつく抱きしめられていた。