アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
 朝食はどれもありふれた料理に見えるけど、普段日本で食べているのとは全然味わいが違う。

 特にサラミソーセージとハムがおいしい。

「フランス語では乾燥させたソーセージはソシソン、ハムはジャンボンって言うよ」

「どちらも見た目ほど脂身がくどくなくて朝食にいいですね。毎日食べても飽きない味」

「僕らみたいだろ」

 ジャンは、『私のこと、飽きてない?』というさっきの会話に絡めたんだろうけど、つい、彼とした行為を思い出してしまう。

 毎日食べるって……私のこと?

 毎日どころか、一日三食とか……求められちゃったらどうしよう……なんてね。

 やだ、何考えてるんだろ。

 はしたないし、度が過ぎる。

 昨日まで何も知らなかったくせに。

「どうしたの?」

「な、なんでもない。なんでもないから」

 思わず顔を手であおぐ。

 ほんと、どうしちゃったんだろう、私。

 おかしな妄想を振り払おうと、私はカフェオレのカップで顔を隠すようにしながら庭園を眺めた。

 昨晩は蝋燭に灯がともるように等間隔に並んでいた樹木の間に、長方形の運河が延びて、お日様の光が宝石をちりばめたように反射して輝いている。

「広いお庭ですね。運河も長くて滑走路みたいですよね」

「フランス革命前にこの城を作らせたクレイユ公爵は一度だけ運河に船を浮かべて遊んだらしいよ。でも、それっきり二度目はなかったんだそうだ」

「もったいないですね」

「貴族の道楽なんて気まぐれだからね」

 運河を二羽の白鳥が泳いでいる。

 お互いを追いかけるように首を伸ばしたり、並んで漂ってみたり、くちばしでちょっかいを出し合ったり、なんだか楽しそうだ。

「もしかしたら、鳥たちの邪魔をしたくなかったのかも」

 私が運河を指さすと、ジャンがうなずく。

「ああ、そういうことか。なるほどね。たしかに鳥たちの恋を邪魔するなんて、フランス貴族らしくないかもね」

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