アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
 急に涙が浮かんできた。

 体の芯が震えて涙がぽろぽろと頬をこぼれ落ちる。

 ジャンがとっさに私を抱き寄せようとして、ためらいがちに手を引っ込めた。

「そこは迷わず抱きしめてくれなくちゃ」

 あなたがしてくれないのなら、自分で自分を抱きしめるしかないじゃない。

 この涙をどうしてくれるのよ。

 私は自分の体に腕を巻き付けるようにして彼を拒んだ。

「ごめんよ。本当にごめん」

 彼が額に手をやりながら首を振る。

 やだな、自分が……。

 なんてわがままなんだろう、私って。

 彼を拒んでおいて、彼を求める。

 でも、私の嫌なこと、してほしいこと、それを正直にぶつけられるのも、私が彼を愛してるから。

 今までそんな人に出会ってこなかった。

 彼が初めてだった。

 だからこそ、がっかりしてしまったんだし。

 だから……こんなに悲しいんだ。

 ジャンが私の手を取って、それから優しく抱き寄せて頭を撫でてくれる。

 濡れて泥臭いスラックスとワイシャツの水気が私の服ににじんでくる。

 でも、そんなのどうでもいい。

「ねえ、ジャンは私の体が目当てなの?」

「そんなこと言わせてしまってすまない。本当に君に嫌な思いをさせるつもりはなかったんだ」

「私の体なんか、どこがいいの? 処女だったから? 何も知らない私だから、自分の思うように操れる都合のいい女ってこと?」

「違うよ」と、ジャンがため息をつく。「君は素敵だよ、ユリ。僕は君がバージンだったなんて知らなかったし、君を支配しようと思ったこともないよ。実際、君を抱きしめているときの幸せはこの上ない喜びだったよ。それを与えてくれた君には感謝してるさ。お互いの相性は素晴らしく良かったと思うんだ。女性に対してこんなに真剣になったのは僕も本当に初めてだったんだよ。今までこんなに夢中になったことはなかった。だからこそ君をほしかった」

 彼が必死になればなるほど、気持ちが冷めていく。

 抱きしめられればられるほど、心の距離が開いていく。

 私、メンドクサイ女かな。

 相手を責めてばかりいて、結局何がしたいのか分からなくなってる。

 そっか。

 ケンカもしたことないから、おさめ方も分からないんだ。

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