アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました

   ◇

 ――ユリ……。

 いつの間にかまた眠っていたらしい。

 時差からくる体の倦怠感と精神的な動揺でいくらでも寝ていられそう。

 枕が濡れている。

 目を開けるとベッドにジャンが腰掛けていた。

 昨日出会ったときと同じビジネススーツ姿。

 ネクタイの結び目が素敵。

 私の素敵な王子様。

 なのに彼は私を見ているだけ。

 ――目覚めのキスはしてくれないの?

 王子様なのに。

 私が手を伸ばすと、彼が困惑したように顔を寄せてきて私の額に口づけた。

「そっち?」と、私は唇を突き出した。

「いいの?」

「だってここは私たちが愛し合う場所でしょ」

 私は横になったまま体をずらせて彼をベッドに招き入れた。

「時と場所をわきまえてくれれば拒んだりしないから」

「じゃあ、もう怒ってない?」

「最初から怒ったりしてないわよ。悲しかっただけ」

「じゃあ、仲直りのキスをしよう」

 ジャンの青い瞳が私を見つめている。

 火がついたように体が熱くなる。

『キスをしよう』なんてあらためて言われるだけでものすごく照れくさい。

 それ以上のこともいっぱいしたのに。

 やだ、鼻に汗が浮いてきちゃった。

 思わず枕に顔を埋める。

「どうしたの。仲直り、嫌なの?」と、耳元で彼がささやく。

 嫌なわけがない。

 でも、こんな顔、見られるのはもっと嫌。

「キスは恥ずかしいからギュッてして」

 彼は素直に私を抱きしめてくれた。

「次は何をお望みですか、姫様」

「ずっとこうしていて」

 こうしていれば火照った顔を見られなくて済む。

「僕が我慢できなくなっちゃうよ」

 私の太股に彼の固い何かが当たっている。

「我慢しなくていいのに」

「残念だけど」と、彼が腕をついて体を起こす。「もう市長が来てるんだよ。ユリにも来てほしいんだ」

「市長さん?」

 そんな偉い人がわざわざ家まで来るなんて、やっぱり上流階級の交際って庶民とは違う。

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