アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
第4章 愛の形
 夫婦となった私たちは午後からパリへ行くことになった。

 それを聞かされたのは昼食のときだった。

 サーモンのムニエルにアスパラガスとトマトパスタを添えたワンプレートを前に、ジャンが急に言い出した。

「母に紹介するよ」

 聞いたとたん、もう味なんかまるで分からなくなる。

 常識的に言えば、先に紹介してもらって、承諾を得るべきだったとは思うけど、今さら遅いか。

 日本のうちの両親にだって事後報告になっちゃったわけだし。

 いちおう母親にメールしたけど、まだ返信は来ていない。

 結婚式もしてないし。

 市長さんとの署名が式だったのかな。

 地味子の地味婚。

 全然、おもしろくないけど。

「フランスでは、こういった形の結婚って多いの?」

「手続きだけで済ませるってこと?」

「家族に伝える順番とか」

「まあ、普通ではないね。日本と変わらないと思うよ。日本のヒロウエンみたいなのはないけど、パーティーならするし」

 じゃあ、なんでこんな強引に?

 同意した私も私だけど。

 本当は同意してないんだけど、しちゃったことになってるだけだし。

 破り捨てることのできない婚姻届はパスポートに挟んである。

「ジャンのお母様は承知してるの?」

「いや、これから話すよ」

「反対されたらどうするの?」

「するわけないさ。ユリのことを気に入るに決まってるよ」

 どこからそんな自信が湧いてくるんだろ。

 身分も違うし、外国人だし、いきなりだし。

 おまけに地味子だし。

 歓迎される要素がまるでないんだけど。

 ああ、もう、緊張する。

 結婚しようと言ってきたのはジャンの方で、彼のペースに乗せられてしまったわけだから私は悪くないとは思うけど、やっぱりお母様に対面するとなると平静でいられるわけがない。

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