アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
「フォーマルなワンピースに着替えた方がいいと思う?」

「身内に会うだけなんだから気にしなくていいよ。ユリはユリのままでいい」

 うーん、それは違うと思うんですけど。

 妻となったからには、それにふさわしい服装があるし、まして夫が上流階級なら、恥をかかせる格好もできない。

 かといって、いきなり服を買ってくれとは言いにくいし、今はあきらめるしかないか。

 そもそも今さらなんだけど、シャトーホテルのドレスコード対策として日本からわざわざ持ってきたフォーマルなワンピースを鏡の前で当ててみたら、授業参観のお母さんみたいで情けなくなっちゃった。

 こんなの誰にも見せられない。

 せめて、結婚式に呼ばれた新婦の友人くらいじゃないと。

 もうなんかいろいろおばさん……。

 もっと早く気づきなよ、私。

 つくづく、予約していたシャトーホテルに泊まれなくて良かったと思う。

 ホテルのレストランでこんな格好してたら裏で笑われてただろうな。

 結局カジュアルな格好のまま出かけることに。

 ジャンはビジネススーツ姿で釣り合わないけど、しょうがない。

 車に乗り込むときにクロードさんから声をかけられた。

「ジャンと仲直りしてくださってありがとうございます」

 スマホの画面越しの会話だけど、心のこもった言葉はやっぱりうれしい。

「賢い犬と愚かな男には躾が必要。愚かな犬と賢い男には近づくな、危険」

 ええと……、ジャンは愚かな男ってこと?

「ウィ・マダム」と、車のドアが閉められた。

 クロードさんの運転する黒塗りのベンツが森を抜け、幹線道路に入る。

 ジャンは車の冷蔵庫からシャンパンを出して、もう二杯目だ。

 私は酔っ払ってしまったらまずいと思って遠慮しておいた。

「僕も最近はあまり母とは会ってないんだ。月に一、二度、パリに出たときくらいだね。母は今時スマホも持たないし。持たせようとしても、『いらない』と冷淡でね。用事があるといまだに手書きの手紙を書いてよこすんだ」

 その話から高齢者を想像してしまったけど、違うらしい。

「母は二十歳で僕を産んでるから、今五十だね」

 うちの母親より十歳若い。

「まだお若いのにスマホを持たないって珍しいですね」

「あまり表に出たがらない人なんだ。パーティーとかも好きじゃないし。買い物も日本でいう外商って担当者が家に来るからね」

 お金持ちの生活や考え方はやっぱり分からないことが多い。

 大丈夫なのかな。

 私みたいな庶民でもうまくやっていけるのかな。

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