アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました

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 初めての海外旅行は八年前、卒業旅行のロンドン一人旅。

 英語は学校で習った程度しか分からなかったけど、不安はなかった。

 どうせ日本でもほとんど人と会話なんかなかったんだもの。

 実際のところ、自分の言いたいことはなかなか英語が出てこなかったけど、相手の言っていることはある程度聞き取れたし、標識や看板みたいに文字で書かれた物は単語の意味で想像できたからほとんど困ることはなかった。

 それ以来、まとまった休暇を申請しやすい職場ってこともあって、年に一度は土日を絡めて十日間くらいの休みを取ってヨーロッパへ行くようになった。

 何カ国も移動するのではなく、パリならパリ一カ所に滞在して、そこから日帰りで行けるところに脚を伸ばすのが私のスタイル。

 観光地でなくてもいい。

 前回はただひたすら小麦畑の中を歩いてみたりした。

 なんにもないのがいい。

 輪作の菜の花畑が見渡せる丘の上で炭酸水を飲み、ハムとチーズをはさんだバゲットをかじりながら時折吹き抜ける風の音を聞く。

 ――そんなの何が楽しいの?

 べつに楽しいわけでもない。

 ――疲れるでしょ?

 もちろん。

 ――退屈じゃない?

 うん、そうだよね。

 だけど、それでいい。

 こんなこと一人じゃなきゃできない。

 誰かがいたら、何か話さなきゃとか余計なことばかり考えちゃうでしょ。

 だから旅は一人がいい。

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