アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
洗濯機が止まる寸前みたいな振動と共にエレベーターが動き出す。
内部は作動音が反響して掃除機の中に閉じこめられたみたいで会話にならない。
そのわりにスピードは遅くて、上へ向かっているのか下りているのか感覚が分からなくなってくる。
まるで地下深くの炭鉱にでも連れて行かれるみたいだ。
一階から二階、二階から三階へと上がっていくたびに、室内灯が一瞬消える。
三階を通り過ぎたところで下から突き上げるような揺れが襲いかかってきて思わずジャンにしがみついてしまった。
「心配ないよ。いつもこうなんだ」と、ジャンが両手をメガホンのように私の耳に当てる。「パリのこのあたりは革命後の建築なんだけど、アールデコの時代に改装されたきり、中途半端な古さで残ってて、こういうエレベーターも文化財として保存されて使われてるんだよ。逆に言えば改修不可ってことなんだ」
まだ使えるのはすごいけど、いつ使えなくなるのか止まるのか、考えるのが怖い。
「その点、うちの城はエレベーターなんかなかった時代だから、不便だけど落ちる心配はなくていいだろ。僕のお姫様抱っこは今のところ足腰がしっかりしてるから心配しなくていいよ」
ジャンのエスプリに苦笑いを浮かべたところでようやくエレベーターが五階に到着した。
蛇腹を横に押して外に出る。
廊下はなく、エレベーターホールをはさんで左右にドアが一つずつあるだけだった。
ジャンが右側ドアの暗証ボタンを押すと、ブザーが鳴って解錠される。
「アロ、マモン?」
ドアを開けて呼びかけても返事がない。
「いないのかな。ちょっと奥の部屋を見てくるからそこらへんに座って休んでてよ」
彼はどんどん奥へ入ってしまう。
私は閉め出されると困るから中に入ってドアのところに立っていた。
日本のように靴を脱ぐ場所はなくて、入ってすぐがもう広いリビング。
窓枠や壁と天井のふちに施された装飾はアールデコ様式で、おそらく建築当時のものなんだろうな。
大理石の床にはテーブルセットやソファが置かれ、窓際には支柱に巻き付けられた大きな観葉植物の鉢植え、壁にはぐしゃぐしゃな絵の具としか言いようがない抽象画が飾られている。
ソファのそばに天秤のような物が置いてあるから何かと思ったら、受話器がラッパのような形をしたアンティークデザインの固定電話だった。
ダイヤルを回す電話機なんてまだ使えるんだ。
他には本や小物を置いた棚があるくらいで、良く言えばシックでシンプル、悪く言えば倒産セールの家具屋さんみたいに殺風景な部屋だった。
城館の華麗な雰囲気とは対照的で意外な気がした。
入口に立ったままなのもかえっておかしいかと思って部屋へ足を踏み入れたとき、私は正面の窓に吸い寄せられていた。
内部は作動音が反響して掃除機の中に閉じこめられたみたいで会話にならない。
そのわりにスピードは遅くて、上へ向かっているのか下りているのか感覚が分からなくなってくる。
まるで地下深くの炭鉱にでも連れて行かれるみたいだ。
一階から二階、二階から三階へと上がっていくたびに、室内灯が一瞬消える。
三階を通り過ぎたところで下から突き上げるような揺れが襲いかかってきて思わずジャンにしがみついてしまった。
「心配ないよ。いつもこうなんだ」と、ジャンが両手をメガホンのように私の耳に当てる。「パリのこのあたりは革命後の建築なんだけど、アールデコの時代に改装されたきり、中途半端な古さで残ってて、こういうエレベーターも文化財として保存されて使われてるんだよ。逆に言えば改修不可ってことなんだ」
まだ使えるのはすごいけど、いつ使えなくなるのか止まるのか、考えるのが怖い。
「その点、うちの城はエレベーターなんかなかった時代だから、不便だけど落ちる心配はなくていいだろ。僕のお姫様抱っこは今のところ足腰がしっかりしてるから心配しなくていいよ」
ジャンのエスプリに苦笑いを浮かべたところでようやくエレベーターが五階に到着した。
蛇腹を横に押して外に出る。
廊下はなく、エレベーターホールをはさんで左右にドアが一つずつあるだけだった。
ジャンが右側ドアの暗証ボタンを押すと、ブザーが鳴って解錠される。
「アロ、マモン?」
ドアを開けて呼びかけても返事がない。
「いないのかな。ちょっと奥の部屋を見てくるからそこらへんに座って休んでてよ」
彼はどんどん奥へ入ってしまう。
私は閉め出されると困るから中に入ってドアのところに立っていた。
日本のように靴を脱ぐ場所はなくて、入ってすぐがもう広いリビング。
窓枠や壁と天井のふちに施された装飾はアールデコ様式で、おそらく建築当時のものなんだろうな。
大理石の床にはテーブルセットやソファが置かれ、窓際には支柱に巻き付けられた大きな観葉植物の鉢植え、壁にはぐしゃぐしゃな絵の具としか言いようがない抽象画が飾られている。
ソファのそばに天秤のような物が置いてあるから何かと思ったら、受話器がラッパのような形をしたアンティークデザインの固定電話だった。
ダイヤルを回す電話機なんてまだ使えるんだ。
他には本や小物を置いた棚があるくらいで、良く言えばシックでシンプル、悪く言えば倒産セールの家具屋さんみたいに殺風景な部屋だった。
城館の華麗な雰囲気とは対照的で意外な気がした。
入口に立ったままなのもかえっておかしいかと思って部屋へ足を踏み入れたとき、私は正面の窓に吸い寄せられていた。