アラサー地味子@シャトーホテル/フランスでワケアリ御曹司に見初められちゃいました
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とりあえず運河のまわりを歩いてみようかと城館から裏のテラスに出たときだった。
表の方で獣の咆吼みたいな音が聞こえた。
何事かと思って建物を回って見に行くと、正面玄関前の車寄せに真っ赤なスーパーカーが止まっていた。
私でも分かる。
フェラーリだ。
スマホみたいに薄い車のドアが開いてすらりとした脚が差し出され、私と同年代くらいの女性が颯爽と降りてくる。
グレーのビジネススーツ姿で、先のとがったパンプスをはいているにしても、ジャンと並ぶくらい背が高い。
透明感のある金髪に灰色の瞳、くびれをこれでもかと強調する腰つきに、タイトスカートから伸びる足首の締まった脚。
そのどれよりも目を引くのがブラウスがはちきれそうな……はちきれてる胸。
自分の浅い谷間と比べて、思わずたじろいでしまう。
そんなスタイルの良い美人が前髪をかきあげながら私に向かって歩み寄ってくる。
「こんにちは」
あれ?
日本語だ。
「こ、こんにちは」
私も日本語で返すと、彼女は両手を広げて笑みを浮かべた。
その笑顔も映画スターの演技みたいに完璧だ。
モデル並みの西洋人の顔に流暢な日本語で、吹き替え映画を見ているような錯覚にとらわれる。
「やっぱりあなたね。日本から来たんでしょ」
「ええ、はい、そうです」
「私は、ミレイユ・ドゥ・ボワイエ。よろしく。ニッポンのお客様は大歓迎よ」
フランス式の挨拶ではなく、日本人みたいに両手を横にそろえて軽く頭を下げながらの自己紹介で、思わずつられてこちらも頭を下げてしまう。
「ジャンと同じ時期に私も日本に留学していたのよ。今はアジア貿易のビジネスをやってるわ」
「ああ、そうなんですか。だから日本語がお上手なんですね。私は白沢百合です。こちらこそよろしく」
すると、一歩間合いを詰めてきたミレイユさんが私の耳に顔を寄せてささやいた。
ココナッツオイルの香りがする。
「名前、間違えてない?」
あ!
「あ、はい、ええと……。ユリ・シラサワ・ラファイエットです」
慣れない名前だなあ。
なんか照れくさいし。
「結婚おめでとう」
「ありがとうございます」
と、ミレイユさんが急に目をつり上げて私の胸を人差し指でつついた。
「この泥棒猫!」
――え!?
ど、ドロボウネコ!?
「……なんてね」
彼女は肩を揺すって笑いながら咳払いをした。
「こんなセリフ、本当に言うチャンスが来るなんてね。あなたに感謝しなくっちゃ」