極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
 繭の恋愛経験は一度きり。高校二年生のときに同級生の彼氏ができたものの、三か月で自然消滅してしまった。唇が触れ合うキスを一度か二度しただけで、その先の経験はまったくない。舌を絡ませる大人のキスだって、さきほど樹にされたのが初めてだったのだ。

(でも高坂先生には気づかれないようにしなくちゃ。一夜の関係なんてよくあることって女になりきるの!)

 こういうときにペラペラしゃべる女が大人のいい女なのかどうかはわからないが……繭は余裕のあるところを見せようと彼に話しかける。

「先生なら、もっとスタイルのいい女性を今からだって呼べるでしょうに」
「たしかに。でも、俺はフレンチより家庭料理が好きだから」

 繭はちょっと笑ってしまった。笑うといくらか緊張もほぐれる。

「私、家庭料理ですか?」

 繭につられて、樹もふっと口元を緩める。

「肉じゃがっぽいな。地味なとこが」

 樹は繭の足元からはぎ取ったワンピースを床に投げ捨て、白い脇腹を直接撫でた。そのまま彼の手は背中に回り、ブラのホックがぱちりと外される。

「あっ」

 これから起こることはもちろん想定していたが、繭が思っていたより性急にことが進んでいく。守るものが奪われた心許なさに繭は思わず、胸の前で自分の腕をクロスした。

(どうしよう……本当にこのまま?)
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