極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
「んっ」

 かすかな身じろぎとともに彼女は吐息を漏らしたが、目を覚ましてはいないようだ。その事実に樹はほっとすると同時に、ほんの少しの落胆も覚える。

(起きてくれたら、もう一度……なんて、思ったのは初めてだな)

 樹はぱっと繭から顔を背け、手で口元を覆う。誰が見ているわけでもないが、自分のなかに生まれた思春期の少年のような劣情を気恥ずかしいと感じたからだ。

(でもまぁ、連絡先を聞くくらいなら)

 樹は明日、いやもう十二時を過ぎているから正確には今夜、渡米する身だ。だからこの部屋に入る時点では『一夜かぎりになるだろうな』と思っていたし、おそらく彼女のほうもそのつもりでいたはずだ。だが、彼女を抱いてしまった今はそんなふうには思えなかった。これで終わりにはできないと樹は強く感じていた。朝、別れる前に連絡先だけは聞こう、そう決意して樹は彼女の隣で眠りについた。
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