極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
(アドレスが変わってる? どうして?)

 気になって仕方のない樹はすぐに繭と同じチームに所属する同僚に電話をし、それとなく彼女の話を聞いた。

『あぁ、妹尾さんね。先月末づけで退職したんだ。あまりにも急で俺も驚いたんだけど、家庭の事情だって言うからそれ以上は聞きづらくて……』

 通話を終えた樹はしばし呆然となった。縁がなかった、もっと言えば彼女のほうにつなぐ気がなかった。ただそれだけのことに、樹は大きなショックを受けていた。

 それでも忙しい毎日に彼女の記憶は自然と薄れていくだろうと期待していたのだが、時間が経てば経つほどに樹の脳裏に住み着いた繭はその存在を主張しはじめる。
 アメリカ人女性は積極的だ。わかりやすいアプローチを受けることも多かったが、自分でも不思議なほどに食指が動かない。むしろほかの女性と接するほどに、繭に会いたいという気持ちが高まっていく。

 そんな樹の願いが神に届いたのか、途絶えたと思っていた繭とのつながりは完全には切れていなかった。日本に帰国してすぐ、樹は繭との再会を果たす。階段から転げ落ちてきた母子、その母親がまさか会いたいと願い続けていた女性だとは……樹は驚きに目を見はったが、繭に抱かれている子どもの顔を見てさらなる衝撃を受けた。

(子どもの頃の俺にそっくりだ……)
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