極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
 樹が短く返すと、美智子は探るような視線を樹に向ける。

「けど、どうして高坂先生が繭ちゃんのことを? 彼女が退職してずいぶん経つのに」
「……なんでもないんだ」

 余計に怪しんでいる様子の美智子から視線を外し、樹は決意を固めた。

(繭と旬太に会いに行こう)

***

 妊娠が発覚しても繭は樹に連絡をしてこなかった。事務所に確認すれば連絡先くらいすぐにわかったはずなのに。それはつまり、繭が樹をまったく信頼していないことの表れだろう。当時のふたりの関係性からしたらさもありなんで、樹には『教えてほしかった』などと言う資格もない。

(本当に今さらだが、彼女に頼られる男になりたい、そして、叶うことなら繭と旬太と家族に……)

 だから、ゆっくりでいいと樹は思っていた。旬太のことを聞くのも繭の信頼を得てから、そう思っていたはずなのに……。

 繭のそばにいたら、離れている二年の間ずっと閉じ込めていた感情が堰を切ったようにあふれてしまって自分でもコントロールできなくなった。繭に触れたい、独占したい、ほかの誰にも渡したくない。

(好きだ。こんなことを言う資格もないかもしれないが、それでも俺は繭が――)

 昂る気持ちを抑えきれず、デートの終わりにとうとう彼女にキスをした。
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