極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
 二年前のあのときと同じ、いや、それ以上に彼女とのキスは極上で樹を甘く溶かしていく。
 恋とか愛とかそういうものは得意ではなかった。だが今ようやく、自分が繭に恋をしていることをはっきりと自覚する。繭が欲しい、このぬくもりを今度こそ手放したくない、樹はそう強く願った。

 名残を惜しむようにゆっくりと、ふたりの唇が離れていく。こつんとおでこをぶつけた樹は、目の前にある繭の瞳をのぞき込む。

(同じ気持ちでいる、そう思うのは俺のおごりだろうか)

 樹は耐えかねたように気持ちを吐き出す。

「――繭が好きだ。今さらかもしれないが、もう一度チャンスをくれないか」

 そう告げた瞬間、繭の細い肩がびくりと震えた。惑うように、おびえたように、彼女は樹から視線をそらした。伏せた長い睫毛がかすかに揺れている。

「悪い、急ぎすぎた。返事はすぐじゃなくていい」

 樹は焦った様子で早口に言う。ここでノーを突きつけられるわけにはいかない、もう少し望みをつないでおきたい一心だった。

「ゆっくりでいいから。繭のなかで結論が出るまで、もう触ったりしない。約束する」

 必死にすがる自分のかっこ悪さを自覚しながらも、樹は懸命に言葉を重ねる。

(みっともなくてもいい。まだ、今度こそ、諦めたくないんだ)
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