極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
「でも……」

 樹はまだなにか言いたそうだったが、トコトコと歩いてきた旬太が樹の脚にぎゅっと抱きついたのでそこで言葉を止めた。樹は身体をかがめて旬太を抱きあげると、優しい笑みを彼に向ける。

「どうした、旬太?」
「ん~、ぱ、ぱぱ! ぱーぱ」

 満面の笑みで旬太は言って、樹の顔をペタペタと触る。

「旬太、なにを言って……」

 繭はうろたえたが、樹は心底うれしそうな顔で旬太に頬ずりをする。

「ありがとう、旬太」

 樹の表情とその言葉に、繭は戸惑う。

(えっ……樹くん、もしかして気づいて? いや、そんなはずはないよね)

 翌日。繭は実家の玄関で旬太に手を振り、しばしの別れを告げる。

「じゃあ、旬太をよろしくね」

 旬太を預けたらすぐに帰ろうと思っていたのに、両親と遊びに来ていた姉に引き止められてズルズルと長居してしまった。下手したら、家に戻るのが樹より遅くなってしまうかもしれない。繭は足を速めて自宅へと急いだ。
< 112 / 124 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop