極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
 繭はほんの一瞬ためらったが、すぐに庭を飛び出した。樹を残していくことは不安でたまらないが、自分ひとりでは彼を助けられない。
 恐怖で身体がこわばっているせいか、思うように足が前に進まない。それでも繭は懸命に走った。人の多い大通りに出ると、繭は助けを求めて力のかぎりに声を張りあげる。

 幸運なことにたまたま自転車で見回り中だった警官がそこにいて、繭はすぐに彼とともに樹のもとへ戻った。

「い、樹くん……」

 繭は膝から崩れ落ちるようにぺたりと地面にへたり込んだ。安心して全身の力が抜けてしまったのだ。樹は助けも待つまでもなく川口との乱闘に勝利していて、うつ伏せに川口の身体を組み敷いていた。樹は落ち着いた様子で警官に状況を説明し、川口を引き渡す。

 そして腰が抜けて立ちあがれなくなっている繭のもとまで歩いてくると、その場に膝をついた。繭の目尻ににじむ涙を優しく拭うと、ふっと口元を緩めて言う。

「無事でよかった。触らないって約束したけど……今だけ許して」
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