極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
 落ち込む繭に樹は言う。

「こんな傷はなんてことないが……なら、繭が手当てしてくれるか?」
「はい! もちろん」

 繭は勢いよく振り返って、そう言った。

「待っててくださいね。今、救急箱を――」
「ストップ」

 救急箱を取りに行くため樹の腕のなかを離れようとした繭を、樹は押しとどめる。今度は正面から繭を抱き締め、耳元に唇を寄せた。

「キスして。それが一番即効性があるから」

 艶めいた彼の声音に繭の頬はかっと赤く染まる。繭は樹の腕を取ると、おずおずと唇を近づけた。痛々しい傷に次々とキスを落としていく。

「はっ……」

 こらえきれないといったふうに漏れる樹の吐息が、やけに色っぽく、繭の身体を熱くする。何度かのキスのあとで繭が顔をあげ、上目遣いに樹を見ると、彼はくっと楽しそうに笑う。

「唇にキスしてって意味だったんだけど、これはこれで……かなりやばいな」

 樹は繭の顎をくいと持ちあげ、ぐっと顔を近づけた。切なげな声で言葉を続ける。

「もう我慢も限界」

 樹はやや強引に繭の唇を奪う。わずかな隙間から柔らかな舌が侵入して、繭の官能に火をつける。熱く、深く、激しく、繭の心をすべて奪っていくようなキスだった。息もつけない激しさに繭は必死であらがい、樹の胸を押して距離を取る。

(ダメ。大事なこと伝えていないままじゃ、樹くんに愛される資格がないもの)

「って、待って」

 樹は露骨に不満げな顔で繭を見る。軽く肩をすくめて彼は言う。
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