極上悪魔な弁護士が溺甘パパになりました
 繭の視線に気がついた樹はふっと流し目を送ってよこす。どう振る舞えば女を虜にできるか、すべて知っている男の仕草だった。だだ漏れる色気に、自他ともに認める枯れ女子の繭ですらときめきを覚えていた。
 樹はいたずらっぽく笑って言う。

「キスしてって、言わないの?」
「――え?」
「女はキスが好きだろ」

 そこでようやく、繭は彼の言わんとすることを理解した。ほんの少し考えて、繭は思ったままを答える。

「高坂先生に任せます。これは、スーツの代償なので」

 今、繭が彼に身体を差し出している理由は弁償のためだ。もっとも、『肉じゃが』レベルな自分の身体に、彼の高級スーツと同等の価値があるとはとても思えなかったが。
 樹はクスクス笑いながら、繭の身体を抱き起す。向かい合って座る状態になると、樹はくいと繭の顎を持ちあげる。

「そうだったな。じゃ、きっちり奉仕してもらうか」

 短く言うと、樹は強引に繭の唇を奪う。熱を帯びた舌が歯列をなぞり、乱暴に繭の口内を蹂躙する。愛情も優しさもなにもないキス……それなのに、繭のすっかり忘れていた女としての本能を彼は呼び覚ましていく。

(キスが上手とか下手とか、そんなの都市伝説みたいなものだと思ってたけど)
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